東京高等裁判所 昭和55年(行ケ)134号 判決
事実及び理由
一 請求の原因一ないし三の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、審決にこれを取消すべき違法の事由があるかどうかについて判断する。
1 原告は、第一引用例の給料明細書は、予め細長に截断した紙片で、両端が部課別給与支給表に軽くのり付けされたものであり、しかもいわゆる「よろい戸式」に構成され、隣接する紙片相互の間に重合部分があるのに対し、本件考案の給料明細書は、一枚の用紙に複数並列して印刷し、左右の接合部分の内側に複数の切込罫線を入れたものであるところ、審決はこのような両者の相違点を看過し、その結果、本件考案の進歩性についての判断を誤つている旨主張する。
しかし、第一引用例(成立について争いのない甲第一号証)記載の給料明細書が、仮に原告の主張するように、いわゆる「よろい戸式」のものであつたとしても、そして審決が本件考案と第一引用例記載のものとの差異点としてこの点を挙げなかつたとしても、そのことで直ちに審決を違法であるとすることはできない。審決は、第一引用例には、「あらかじめ一葉づつの用紙が軽く両端でのり付けしてある二枚の給料明細書」が記載されているとし、「一方の給料明細書は、それぞれ一葉づつはずし取つて給料袋に入れ、他方の給料明細書は、それぞれ一葉づつはずし取つて個人別に賃金台帳にはり付け」ることが記載されているとして、この分離手段と本件考案の給料明細書の分離手段との間には違いがあるが、本件考案におけるような分離手段を用いることは第二引用例に記載されており、結局本件考案は第一引用例及び第二引用例の記載から当業者がきわめて容易に考えられるものとしたのであつて、本件考案と第一引用例記載の給料明細書の右の相違点のほかに、特にそれが「よろい戸式」であるか否かの相違点を挙げて容易推考性に論及する必要はなかつたものというべきである。原告は、第一引用例の給料明細書は、「よろい戸式」であることにより、製造上の工程数が本件考案のものの数倍となつてコスト高になり、利用者にとつても使いにくく見苦しいものとなつているとの趣旨を主張するが、仮にそのようなことがあるとしても、その故に本件考案が第一引用例及び第二引用例の記載から当業者がきわめて容易に本件考案に想到することができないものとすることはできない。
2 原告は、第二引用例記載のメモ帳は、給料計算用紙とは全く無関係で、複写を考慮しないものであり、そのメモ片の切離しはこれを廃棄するためであり、メモ片を有効に利用するためではない点において、本件考案とは技術思想を異にするものであるから、第一引用例の記載に第二引用例に開示された技術を組合せることにより、きわめて容易に本件考案に想到しうるものではない旨主張する。
しかしながら、審決は第二引用例(成立について争いのない甲第二号証)には、用紙から一葉づつ分離させる手段として、本件考案におけるごとく、用紙の左右に接合部分を残して切込罫線を多数設け、切込罫線間の用紙を一葉づつ分離可能としたものが記載されているとして、これを引用したものであり、審決の認定に誤まりはないから、原告主張のごとく第二引用例記載のメモ帳と本件考案の給料明細書とは異なるとしても、その故にこれを引用してこれと本件考案と比較することができないものとすることはできない。原告の主張は理由がない。
原告はまた、第二引用例には、本件考案のように切込罫線によつて給料明細書が不安定に並列した二枚の用紙を上葉紙と下葉紙との間に安定して仮着保持し、書込み時における困難性及び用紙のゆがみやいたみを防止するようにした構成は全く開示されておらず、このような課題を解決する糸口すら見出せない、と主張する。
しかし、審決は、本件考案の原告主張のような構成が第二引用例に開示されているとするものではなく、複写式用紙を仮着した点については、複写用紙などの紙せんの分野において、多数の紙葉をそれぞれの目的に応じて仮着することは本件考案の出願前広く用いられている技術であるとし、また、第一引用例のものも、その記載からして、複写式記入用紙が仮着されていると認められるとしたものである(もつとも、第一引用例にも複写式記入用紙が仮着されていると認められれば、その点を本件考案と第一引用例との相違点として挙げる必要のないことはいうまでもないが)から、原告の主張はその点において理由がない。
三 以上のとおりであり、原告の主張はいずれも理由がなく、本件審決にはこれを取消すべき違法の点はないから、審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却することとする。
〔編註〕本件考案の要旨は左のとおりである。
氏名欄、基本給欄等が印刷された左右の接合部分bの内側に複数の切込罫線Aを横方向に入れた給料明細書用紙(2)及び氏名欄、基本給欄等が印刷され左右の接合部分b′の内側に複数の切込罫線A′を横方向に入れた個人別賃金台帳用紙(2′)を氏名欄、基本給欄等が印刷された上葉紙(1)と氏名欄、基本給欄等が印刷された下葉紙(3)との間に挿入仮着した複写式記入用紙と(2)′より切離した伝票片びが貼付せらるべき個人別賃金台帳用紙(4)との組合せ。